城の崎にて


僕は志賀直哉が好きだ。とくに城の崎にてという話が好きで、たまに思い返す。偶然生きてることもあれば、偶然死ぬこともある。それは、かつていきいきと活動していたものが、まったくの静かになることで、なかなかに受け入れがたい場合もある。偶然生きてるから、偶然死ぬ。そういう考えがあると、普段の見方が変わってくるかもしれない。死を静かに受け入れるわけでなし、多分死ぬ前に僕は足掻くだろう。こんなに死を受け入れる気でいるのに、僕は死ぬ間際に醜く生き延びようとする。みんなは、あいつは、ダメなやつだという。静かに死ぬことが出来なかったと、でもそれはしょうがないことで、例えばろうそくの火を吹き消した時、これまではしなかった、燃えかすの臭いが鼻に付くように、これはしょうがないことなのだ。
今、世間は綺麗に死ぬことを求めすぎている。