The Human Abstract 人の姿(有心)
誰かを貧しくさせないかぎり
哀憐の居場所はなくなろう
みんながわれらのように幸福であれば
慈悲は居るにも居られなくなる
互いのおそれが平和をもたらし
そのためいよいよ利己愛がつのる
そして残忍はわなを編み
注意深くそのおびき餌をひろげる
残忍は恐怖を聖化して坐りこみ
涙ながし地上をうるおす
えたりかしこしと謙遜は残忍の足もとに
ふかぶかと根をおろす
やがて暗鬱な神秘の木が
残忍な頭上に枝をはりめぐらし
毛虫と蠅が
この神秘を食ってふとる
ついにそれは欺瞞の実をむすぶ
赤く熟れていて食えばうまい
そのうち渡り烏が巣をかけた
最もよく茂ったくらがりに
山と海の神神たちはこの木を求めて
くまなく自然界を探しまわった
しかしかれらの探索はすべて空しい
人間の脳髄にこの木が一本生えている
ブレイク詩集 彌生書房